「ドント・ウォーリー・ダーリン」 不穏なムードが魅力のフェミニズム・ホラー ネタバレあり

MOJIの映画レビュー
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Don’t Worry Darling(2022 アメリカ)

監督:オリヴィア・ワイルド

脚本:ケイティ・シルバーマン

製作:ロイ・リー、ケイティ・シルバーマン、オリヴィア・ワイルド、ミリ・ユーン

撮影:マシュー・リバティーク

編集:アフォンソ・ゴンサウヴェス

音楽:ジョン・パウエル

出演:フローレンス・ピュー、ハリー・スタイルズ、オリヴィア・ワイルド、ジェンマ・チャン、キキ・レイン、ニック・クロール、クリス・パイン

①不穏さは抜群!

アリス・チェンバーズ(フローレンス・ピュー)と夫のジャック(ハリー・スタイルズ)は、カリフォルニアの砂漠の中にあるヴィクトリーという街に暮らしています。アリスや隣人のメアリー(オリヴィア・ワイルド)らはカラフルな家に住み、夜はパーティー。昼には夫たちはフランク(クリス・パイン)が主催する秘密のプロジェクトへと働きに出かけ、妻たちは主婦として家を掃除し、料理を作ります。何不自由ない暮らしですが、やがてアリスは奇妙な歪みを感じ始めます…。

 

「リチャード・ジュエル」などに出演する女優であり、「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」で監督デビューし、絶賛されたオリヴィア・ワイルド監督の第2作。

青春コメディだった前作とは打って変わって、不穏なムードのSFホラーになっています。

 

50年代の郊外の新興住宅地の暮らし。カラフルなアメ車と、レコードで流れ続ける50年代ポップス。青い空と緑の芝生、ニコニコ笑顔の若い住人たち…。

 

一見するとユートピアのような世界。でも、夫の仕事が秘密だったり、立ち入り禁止の場所があったり、何やら怪しい。

微妙な怪しい出来事が日常の中に入り混じり、やがて世界は不気味に変容していきます…。

 

古き良きムードのユートピア。でもその場所には何か秘密がある…という基本世界は、どこか既視感のあるものではあります。「トワイライト・ゾーン」的な。

でも、本作はそこに侵入する「不穏さ」の表現がとても魅力的です。

陽気なパーティーの一方で、どこかからゴゴゴ…と響く謎の轟音。変な地震。

徹底してアリスの視点で多くのことが「分からない」まま、足もとがすくわれるような不安が観るものにも伝わって来ます。

 

世界を怪しみ出すと共に、アリスの体験する現実も歪んでいって、現実と妄想の区別がつかなくなっていく。

不気味なレビューダンスや、瞳の虹彩を拡大したビジョンの映像が美しく、不協和音を活かした音楽も効果的。

 

後半は謎解きになっていくけれど、それでも不穏さ、緊張感は途切れず持続していきます。

オリジナリティある、実にいい感じの不穏さ。不穏・オブ・ザ・イヤーでした。

 

②アメリカ版オトナ帝国

この世界が何らかの作為による作られた世界であることは早々に明らかなので、予想を巡らせながら観ていくわけですが。

世界の構造自体は、どうであれ予想はついちゃうところがあります。いろんなパターンの映画が、既に出尽くしているので。

 

本作における意外性は、この世界を作った目的の方にあります。

というわけで、これ以降はネタバレ注意

 

本作の世界は、辛い現実から逃避して、理想的な世界で生きるための仮想現実

完全没入型のVR世界。

50年代がモチーフになってるのは、その時代をあるべき理想としているということでですね。

古き良き過去の世界を再現して、その中で生きようとする。これはまさに「オトナ帝国の逆襲」!

 

アメリカンドリームが生きていて、巨大なアメ車がガソリンを消費しまくり、男は外で仕事、女は家で家事の役割分担が当たり前だったグッド・オールド・フィフティーズ。

「オトナ帝国」と同様、ままならない現実からの逃避なのだけど。

トランプ人気に象徴されるような、偉大だった過去のアメリカへの懐古のムードが背景にあります。

 

でもそれだけではない。本作の世界観のいちばんのポイントは、ミソジニーを拗らせた男たちによるアンチ・フェミニズムの目的です。

ヴィクトリーでは女たちは主婦として家庭に繋ぎ止められているのだけれど、実はそれは女たちの本意ではなかった。

女たちは男たちに誘拐され、本来の記憶を消され洗脳されて閉じ込められているのでした。

それは、自分より優秀な女性を認めたくない弱者男性の復讐

ヴィクトリーとはつまり、男性の女性への勝利を意味するわけです。

 

最近の映画で本作に近いのは「アンテベラム」ですね。

白人の差別主義者が優秀な黒人を誘拐して、南北戦争時代の南部を再現した農園に閉じ込めて、奴隷としていじめる話。

これも、普通に考えたら意味不明のような目的で、黒人への意趣返しだけが目的。

本作も、この手の込んだ計画のいちばん主要な目的は、女性への意趣返しなんですね。

なんでそんなことを…という理不尽で無意味な目的だけど、だからこそやられる方はたまったものじゃない

そして、そんな思想を持った奴らは実際にいるだろうと思える。だから、怖いわけです。

③欺瞞と搾取を否定する強い意志

本作を観てると、奥さんに正直に話せばいいのに、という気がしてきます。

たぶん、実人生を奪われることがなく、強制的でなければ、あの暮らしを良しとして受け入れる女性はそこそこいるんじゃないかと思えます。

 

そこは本作の結構重要なポイントで、だからあえてオリヴィア・ワイルド監督自身が演じている、隣人のメアリーの役回りが作られています。

メアリーは、他の女たちと違って、この世界が現実でないことに気づいています。

でも、あえてそれを受け入れて、この世界で生きることを選んでいる。

だって、この世界でなら子供たちと一緒に暮らせるから。現実では、彼女は子供を失ったんでしょうね。

 

しかしそんな彼女も、最後にはアリスの脱出を助けようとする。

個人的な願望充足を超えて、自立した女性としての正しい行いを支援することを選ぶわけです。

これはつまり、本作のような欺瞞と搾取を受け入れるのは、本人がそれで満足しているかどうかに関わりなく、認められないのだということ。

 

ヴィクトリーのモチーフとされている50年代、アメリカでも女性の多くは普通に主婦で、「女は社会に出て自己実現するのでなく家庭を守るもの」という「常識」を当たり前のものとして受け入れていたわけです。

でも、それは本来あるべき選択肢を取り上げられていただけのことであって。

強制されていたのと変わりない、是正されるべき状態だった。

 

多様性は認められるべきであっても、社会的慣習や差別によって押し付けられてきた選択は認められるべきではない。

これが現代のポリティカル・コレクトの考え方で、表面だけを見ると反発する人も出てくる考え方ではあります。

でも例えば、現在のイランなんかを見れば、社会的な慣習による一方的な搾取が是正されねばならないのは明白で。

そういう意味で、本作は極めて真っ当に、現代的な正しさを追求する映画になっています。

④テーマ先行であるゆえの弱点も

ただ、そのような政治的な正しさは、映画としては本作の弱点にもなっています。

バランス悪いのは…世界の完成度が高すぎること。

 

何しろ、現実とまったく区別がつかなくて、遊んだり美味しいものを食べたり酔っ払ったりセックスしたり、あらゆる快楽を現実そのままに体験できる世界ですからね。

あれなら、女性への意趣返しに使わなくても、十分に普通の娯楽装置としてビジネスになるのでは?

それこそメタバースどころじゃない没入感なわけで。

普通に男女とも納得した上で、普通に生活しながら、余暇にあの装置を使って理想の世界で遊べばいいやん。

そういうビジネスにすれば、フランクはイーロン・マスク並みの大金持ちになれるのでは?

 

…というのは野暮なんですよね。そういう話ではないので。

本作のミソは、哀れな弱者男性が優秀な女性を拉致監禁して、自分の理想の男尊女卑世界に閉じ込める、というプロットにこそあるので。

女性を支配したいという男の欲望の浅はかな醜さ、怖さを描くことに主題があって、そのテーマがすべてに先立ってる。

 

「そういう話じゃない」ので、普通に想像できる一般的な(差別的でない)使われ方は排除されてしまいます。

だから、SF的な設定の在り方は少々不自然なものになってしまってる気がします。

⑤フローレンス・ピュー最高!

そんな本作の見どころは、やっぱりフローレンス・“ミッドサマー”・ピューですね。

不安の中でコロコロと多彩に変わる彼女の表情を見ているだけで、飽きないです。

 

フローレンス・ピューという人、肩幅広くてがっしりして、決して繊細なタイプには見えないんですよね。

表情も不敵な、ふてぶてしい感じで。いかにもホラー映画のヒロインっぽい感じじゃない。

そんな彼女が不安に振り回されていく様が等身大で、上手く感情移入させられます。

 

アリスの夫ジャックのハリー・スタイルズは、理想世界でのカッコ良さと現実の情けなさの対比が強烈で。

「そういう目」で見ると、男のカッコ良さも形無しになっちゃう。

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彼の今後のペルソナにも影響するんじゃないか…と思えるくらい。

 

フランクのクリス・パインは黒幕にしては軽い感じだけど、これは計画自体の軽さ、浅薄さを示しているのでしょう。

陰謀の主体の愚かさを強調する作劇の場合に、黒幕なのに不釣り合いに軽い…ということが得てして起こる。

 

フランクの妻のシェリー(ジェンマ・チャン)がどういう立場だったのかも、やや不明瞭でした。

最初から彼女がリーダーシップをとって、合法的で現代の価値観に合わせたビジネスにしておけば、何の問題もなかったのに…というのは、まあ言いっこなしなんですが。

 

というわけで、基本面白いのだけれど、設定には乗り切れないところもある…という作品でした。

ビジュアルや音響のセンスは抜群で、独自性の高い面白い映画であることは間違いないと思います。オリヴィア・ワイルド監督もフローレンス・ピューも、次回作にも期待です。

 

 

 

 

フローレンス・ピューの出世作。

 

ミュージシャンであるハリー・スタイルズの映画初出演作。

 

クリス・パイン出演のヒーロー映画。

 

ジェンマ・チャン主演作。ハリー・スタイルズもちょっとだけ出演。

Source: MOJIの映画レビュー

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